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千葉地方裁判所 昭和28年(行)8号 判決

原告 浅野浅治郎

被告 銚子市議会

一、主  文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

二、事  実

原告訴訟代理人は、被告が昭和二十八年十月十四日なした原告を被告議会の議員から除名する旨の議決はこれを取消す、との判決を求め、

その請求の原因として、原告は昭和二十六年四月以来被告議会の議員であつたが、被告議会は昭和二十八年十月十四日の市議会において、原告を被告議会の議員から除名したが、違法であるから取消を求めると述べ、被告の答弁に対し別紙「原告の主張」のとおり陳述した。(立証省略)

被告訴訟代理人は主文同旨の判決を求め、答弁として別紙「被告の答弁」のとおり陳述した。(立証省略)

三、理  由

国会議員の除名が裁判所の裁判事項でないことについては今日争いがない。地方議会の議員の除名は果してどうであろうか。地方議会の議員の除名が国会議員の除名と本質的にちがう点を見いだすことはできないのである。従つて地方議会議員の除名も裁判所の裁判事項ではない。それ故、本件請求は理由がないといわなければならない。

よつて、これを棄却すべきものとし、主文のとおり判決する。

(裁判官 高根義三郎 山崎宏八 浜田正義)

原告の主張

一、原告は昭和二十六年四月施行の銚子市議会議員選挙に当選し、昭和二十六年四月その旨銚子市選挙管理委員会により告示され、同日より引続き銚子市議会議員の地位にあつた者である。

昭和二十八年十月十四日定例市議会に於て、原告は除名処分に附されたが、その理由は、

(1) 原告が提出せる弁明撤回通告並びに議会に対する抗議文を議場において全員一致の議決により原告に朗読せしむべき事を議決し、議長より之が再三朗読を命令せられたるにも拘わらず何等正当なる理由なくして之が命令に従わず之を拒否した事

(2) 九月十二日市議会に於ける弁明に対して、原告が弁明撤回通告に関し発言の責任を他に転嫁せんとし然も暴略手投であり横暴なる市議会であると断定している事は自ら議員の品位をきづつけ議会の尊厳を失墜せしめると共に議会を侮辱する行為であること

(3) 議会に於て「委員の中にはブローカーか闇屋の指導者か、時代遅れの教育者か、精神分裂症か云々」とのべ又「如何に調査が不備でありデタラメの発表であるか」となし、「之等一連の処置は軍部の独裁断圧暗黒時代に思をいたせば良民の困苦死斗時代の底流がひそんでいる様に此の書類をみる時打たれる感がある」とか或は「法的価値なき市議会決議書である」と難じ、「斯くの如き状態たる警告書を見て放置すれば謀略の市会であるか圧政の市会たるか等々」の言句を連ねた抗議文について質問し且つ撤回の意思を確めたるに対し之を改めざるばかりか更に強調し議会を侮辱した言辞を弄したこと

の三点が地方自治法第百二十九条、第百三十二条に牴触すると云うものである。

二、右除名処分は次の点に於て違法であり無効に帰すべきものである。

(1) 本件除名処分は全員着席のまゝ数名の賛成の声で決定してしまつた。議事録を見ても起立、又は記名無記名の投票によらなかつたことは明らかである。右は銚子市議会会議規則第三十五条に違反した決議方法であり、特に地方自治法第百三十五条第二項の特別決議の精神にもとるものである。

(2) 当日の議会で、議長は弁明撤回通告及び抗議文を理由なきものとして却下したこと議事録に明らかである。にも拘らず再び之をむしかえし、之を理由に除名処分にしたが、右は銚子市議会会議規則第十九条に違反し違法な手続である。

(3) 原告に対する朗読命令は銚子市議会会議規則第二十二条に違反する違法な命令であり、之を原告が拒否したことは正に正当な行為に外ならない。

(4) 弁明撤回通告及び抗議文は昭和二十八年九月十七日に議長宛に提出されたものであるが、十月十四日の議会で之を取上げ問題にすることは銚子市議会会議規則第六十条第二項に違反し違法な行為である。

三、右の如く手続的、形式的に違法であるばかりでなく、その実質的内容に於ても違法であり無効に帰すべきものである。前記除名理由を検討するに、地方自治法第百二十九条は発言停止に関する規定であつて此規定に該当する具体的事実はどこにも存在しない。又同法第百三十二条は「無礼の言葉禁止」の規定であるが除名理由にあげられた無礼の言葉としては要するに弁明撤回通告中の「謀略手段であり横暴な市議会である」との語句、及び抗議文につき原告に対し撤回意思を確めた際に原告がなした「議会を侮辱した言辞」の二点に尽き、議会を侮辱した言辞の具体的内容は明らかにされていない。

抑々除名は議員たるの地位を終局的に剥奪するものであり最重最苛の懲罰であることは論をまたない。

而して、除名は単に当該当事者に重大な影響を及ぼすばかりでなく、又当該議員を選挙する選挙民が当該議員を通じ自己の意思を表明する機会をも併せ剥奪するものであり、その適用は最も慎重を要するところである。この理は地方自治法第八十条に当該選挙民が議員の解職の請求をするにすら有権者総数の三分の一以上の署名を要すとしていることによつても明らかである。従つて、除名処分を適用するには当該議員並に選挙民に対し蒙らしめる損失と対比しつゝ尚且、当該職員を除名しなければ議会の秩序を保持し難い程重大なる除名理由ある場合にはじめて可能となるものであり、右は憲法第九十三条に保障された住民の議員選出の権利並に憲法第九十二条に規定する地方自治法の本旨に基き制定された地方自治法の趣旨よりして当然のことと云うべきである。

前述の如く本件除名の理由は要するに「謀略手段であり横暴な市議会である」との語句及び何を指すか不明な「議会を侮辱する言辞」が地方自治法第百三十二条に所謂「無礼の言葉」に該当すると云うに尽きる。

原告は右は無礼の言葉に該当しないと信ずるものであるが仮に該当するとしても、「謀略手段であり横暴な市議会である」との語句は「此のような議案を僕(原告)が退場中に決定をして、僕が出席休憇中に弁明させ、之を以てマイク問題に対して陳謝の言葉に替えるが如きが事実とするなれば」と云う仮定の下に断定した語句であり、決して市議会に対し直接あびせた言葉ではなく、又「議会を侮辱する言辞」と云う如き抽象的語句はそれ自体無礼な言葉としての理由にならないかかる片言隻句をとらえて最重最苛の除名処分に附するのは正に自由裁量の限界をはるかに逸脱した違法な処分と言わざるを得ないのである。

四、しかしながら右言句は抑々無礼の語に該当するものではないのである。この点を明らかにするには原告が弁明撤回通告及び抗議文を提出するに至つた理由を明らかにすれば足る。

(1) 原告は銚子市議会における唯一人の社会党左派に属する議員として常に厳正なる立場を堅持し、一般市民の生活と利益とを守るべく勇敢に苛酌なく市政を批判し来つたため一部利権に吸々たる人士より畏怖せられていた傾があつた。

昭和二十八年六月八日、定例市議会に於て原告は緊急質問に立ち、昭和二十八年三月の市衛生課の宣伝用拡声機購入に関する談合、不当価格購入等につき追求するや保守派議員等は予め今日あるを予想し、言葉巧に原告が電機器具業者として昭和二十六年三月納入した市消防署購入の照明自動車用拡声器の件につき二年有余を経た今日突如質問の矢を放ち如何にも原告に不正があるかの如く印象づけて遂に右二件を合して特別調査委員会の調査に附託することとした。

右特別調査委員会の調査は爾後三ケ月に亘つて続けられたが、その構成メンバーは何れも保守派議員に属し、この機会に所謂うるさ型である原告の発言を封じ、且は市当局の不正を闇にほうむつてしまわうとしたため原告の主張は何等容れられず、その結論は全く真相を糊塗するものとなつてしまつた。

(2) 同年九月八日定例市議会に於て右特別委員会の報告が行われたが、その内容は、市衛生課購入の拡声器の件については、購入手続に多少の慎重を欠いた点があるが不正はなくかへつて原告は巷説を信じ確たる証拠もなく不正行為あるかの如き言辞を弄し議会を煩わしたものであつて原告の行動は自ら議員たる体面を汚辱し、且、議会の権威を失墜したものである。と言うものであり、市消防署購入の照明自動車用拡声器については原告が落札するに至つた再入札執行はその理由乏しく妥当を欠き市会議員の地位を利用したような感を抱かせ遺憾である。昭和二十六年十一月の右拡声器用コイル修理については保証期間中であるにも拘らず原告は修理代を収受し不可である。と言うものであつた。

(3) しかしながら、最初の件については

(イ) 落札価格が市価に比し一割八分の高価であることは特別委員会も認めるところである。

抑々一割八分の高価が売却価格として不当でないという考方は全く今日の競争入札の実状を知らないものであり銚子市に於ても従来の競争入札は精々で六乃至七分の利益に過ぎなかつた。そして之が今日の商取引の実状でもあるのである。

(ロ) このような高価な落札価格が決定したのは実は競争入札をしなかつたからである。

特別委員会報告書理由中にも市衛生課は各別に見積書を提出させず落札者白土政蔵から三通の見積書を徴しており白土が勝手に他の入札者である森谷、宮内両名から未記載の見積用紙に捺印を貰い、之に自分で適当に金額を記入して白土が最低入札者であるように書類をつくりあげて提出したものであることを認めているかかる購入の仕方が競争入札でないことは明らかであり、市契約条例第三条に違反した違法な購入である。

(ハ) しかも、部品中「コンバーター」は中古品を使用しており、

(ニ) トランペツトスピーカーは三十ワツトとなつているに拘らず実際には二十五ワツトを使用していた等の不正が行われている。之等の点を原告は不正として糾弾したのであつてそのこと自体正に議員として正当な行動をなしたものであり、報告書の結論は全くあたらないのである。

(4) 又後の件については、

(イ) 再入札に至つたのは最初の入札の際の見積価格が事前に他の業者に漏れたからである。

即ち、最初の入札には四人の業者が見積書を提出し原告は最初に提出しておいたのである。開封直前に「他の業者はロボツトに使われており実は福井商会との間に既に話は出来ている」とのことを電話で知らせたものがあつたので、原告は直ちに市役所へ行き担当の東課長に詰問すると東課長は「係のものがおらず金庫の鍵がないから」等と述べ言を左右にして原告の封印した見積書を見せなかつた。翌日行くと係の勝浦は居たが勝浦は「課長が鍵を持つていつており金庫はあけられない」とのことで再び見積書を見ることができず、更にその翌日行くと既に開封を終り福井商会に落札したからとの返事であつたのである。しかも開封した後を見ると原告のものは爪で切つて開封してあり、他はハサミで切つていて事前に開封した疑惑が濃厚であり、しかも銚子市契約条例施行規則第十九条に違反して、開封に際し関係業者に立合わせない違法な開封であつたので、原告を初めとする関係業者は陳情書を市長に提出しその結果再入札となつたものである。

故に再入札につきさしたる理由なしとする特別委員報告は誤つているのである。

(ロ) 次の修理費の件については、保障期間中製作不備による故障は原告が無償で修理すべき義務は負つていたが註文者の方の取扱が悪いためにこわしたものまで原告が無償修理する義務は負つていなかつた。

問題のヴオイスコイルの故障はコイル線の断線によるものであつたが、その原因は一つのスピーカーに、二つのスピーカーのための電流をかけたこと、雨に濡れたままスピーカーをならしていたことの二点にあつたものであり、当時消防署の職員も明らかにその事実を認めており、且、原告も之等の点は事前によく注意を与えていた点でもあつたので消防署側の取扱の不注意による故障として修理費を徴収したのである。

従つて、この件については原告に何等の不当はなくたゞ昭和二十八年六月八日の原告の緊急質問のほこさきをまげるために二年有余を経た後に突然持出したものにすぎないのである。

(5) かくの如き事実を糊塗した不当な報告であつた為当日の議会は原告との間に大激論が交わされ同月十二日の市議会で更に続行される運びとなつた。当日原告は一身上の問題であると言う理由で退席させられていたが、その退席中に市議会議長の名で原告に対し一方的な内容の警告書なるものが発せられた。原告は控室で待つていると川崎茂、渡辺寛一両議員が来り事実を偽つて「原告の主張が通つたから悪いようにはしない。原告も前回の議会で発言した荒つぽい言葉を柔げるため一言弁明したら良からう」等と巧言を弄し、原告に議場で弁明することを勧告した。

原告は自分の主張が通つたとのことでもあつたので之を承諾して議場で一言弁明したところ、

その後に立つた市長の答弁中に「浅野議員も消防署用マイクのコイルを自分で破かいしたことを認めているからその良心に待つ云々」の語があり、

原告は、はじめて、全く自己の主張が通つていないことを知り、直ちに市長の言に反ばくし、且つ、警告書に反ばくするため抗議文及弁明撤回通告を同月十七日に議長宛提出したのである。

(6) このような詐欺的手段で弁明させられ、且、原告は真に正義のためにたたかつたにも拘らず逆に警告書と言う形で一方的に原告を悪いものときめてしまつた議会のやり口に対して、反ばくしたのであるから弁明撤回通告抗議文等が自ら烈しい語句となつたのも当然である。正に事実に於て、謀略手段であり横暴な市議会であつたのである。

故に事実をありのままにのべた、かかる言句は何等無礼の言葉ではないのである。

被告の答弁

一、被告は原告が昭和二十六年四日二十三日以降銚子市議会議員たること、昭和二十八年十月十四日定例市議会において原告を被告が除名したことは認める。

二、被告が原告を銚子市議会より除名したことを違法であり、無効であると原告は申立て居るが其れは理由がない。

被告が原告を除名したことは適法である。

(1) 本件除名処分は全員着席の侭数名の賛成の声で決定し起立もせねば記名無記名の投票もしなかつたことは銚子市議会会議規則第三十五条に違反した決議方法だと申立て居るが、

全員異議なく、満場一致賛成と言うときには、起立によることも、記名無記名の投票によることも必要としない。

可、否不明の時に於てその議題を可とする者を起立させ起立者の、多数を認定して、可否の結果を宣告する。

但し議長が必要と認めたとき又は議員から発議があつたときは起立の方法を用いないで記名又は無記名投票で表決しても、よろしい。

本件に就いては、議長が委員長の報告に異議がないかどうか会議に諮つた処満場異議がない(出席議員三十名)ので委員長報告通り二十四番議員を銚子市議会より除名することに決定したのである。原告の此の点に対する申立は理由がない。

(2) 更に原告は、当日の議会で議長は弁明文撤回通告及抗議文を理由なきものとして却下したにも拘らず再び之をむしかえし、これを理由に除名処分にしたことは、市議会会議規則第十九条に違反した違法手続だと曰うが、

其れは異ふ。

法律や市議会会議規則を無視して為されたものではない。

議長は九月十二日市議会が決議した警告書に対する原告の弁明文撤回通告及抗議文が九月十七日議長宛に提出されて居るが理由がないものとして却下することに致しますので報告致しますと述べるや三十一番議員より、浅野議員より提出の抗議文を議長より却下するということであるが、我々は内容について正式に聞いて居ませんので、朗読を御願いしたい。

二十九番議員は、提出者に朗読願いたい。(賛成者多し)

議長は二十四番議員に朗読させることに異議ないかどうか会議に諮つた処満場異議ないので二十四番議員に朗読願いたい旨を告げる、二十四番議員は僕が読む必要はないと拒む。

右の様な事実であつて弁明撤回通告及抗議文を却下したことはないのに二十九番議員先程議長は弁明文撤回通告及抗議文を却下するということであつたが或る時期迄保留することの動議を提出、賛成の声多し、議長は二十九番議員の動議に異議ないかどうか会議に諮つた処満場異議ないので保留する旨を告げる。

却下する報告に対し異議ありて、保留となりたるもので原告の主張する事は事実ではない。

(3) 原告に対する朗読を命じたるは市議会会議規則第二十二条に違反するというが。

九月十二日議決した警告書に異議があり反対があるとすれば口頭による陳述か文書による。

文書を以て提出した場合に於ても提出者自ら議会に於て他に促せらるることなく自ら進んで自己の所信を正々堂々と披瀝すべきであつて代読或は代弁(自己の陳述したいことを他に代つて陳述して貰ふこと)せしむ可きではない。

弁明文撤回通告及抗議文は当然原告が市議会に於て朗読すべきもの陳述すべきものであるに拘らず敢へて之を為さぬ故に議会の決議によりて朗読を命ぜらるゝに至つたものであるに拘らず議長の命に従はなかつた原告の主張は理由がない。

(4) 弁明文撤回通告及抗議文は昭和二十八年九月十七日に議長宛に提出せられたことは原告の主張通り提出せられた最初の市議会の開会は十月十四日である。

当日の議会に於て原告の提出した弁明文撤回通告及抗議文が審議せられたので市議会会議規則第六十条第二項に違反しない。十月十四日から二日以内に議会に懲罰処分の要求をすればよろしい。何となれば懲罰事実の発効した日は十月十四日市議会が開会せられてからである。

三、右の通り被告の為したる原告に対する除名処分は適法である。地方自治法第百二十九条、百三十一条、百三十二条、百三十三条、百三十七条及市議会会議規則に違反した議員に対し議決による懲罰を科し得ることは地方自治法第百三十四条に定むる処であり被告が原告に対して為したる処分は手続の上に於ても形式的にも何等違法はなく原告自身法的価値なき市議会と主張し然も法的価値なき市議会の議会人たることの地位を回復せんとするは矛盾も甚だしいといわなければならない。

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